シリコン熱酸化膜の構造と形成メカニズム



熱成長シリコン酸化膜中の残余秩序の解明

熱成長シリコン酸化膜に対して逆空間のcrystal truncation rod (CTR)上に観測されるX線回折ピークの起源を、Si酸化の原子レベル大規模シミュレーションを行うことによって調べた。その結果、熱酸化膜は完全には非晶質ではなく、全体として元の結晶シリコンの構造に由来する残余秩序を保持していることを明らかにした。酸化によってSi原子は元の結晶位置から基板法線方向に移動し(酸化による体積膨張のため)、またその相対位置も無秩序化されるが、それでもなおSi原子は観測可能なX線回折ピークを発生し得る程度秩序を残しているのである。今回の分子動力学計算は、a-SiO2の結合距離と結合角をもつ頂点共有SiO4正四面体から構成され、且つ基板法線方向に約2倍に膨張させたSi格子を平均構造とする、SiO2構造が存在可能であることを実証している。 [K. Tatsumura, T. Watanabe, D. Yamasaki, T. Shimura, M. Umeno, I. Ohdomari, Physical Review B 69, 085212(2004).]



熱成長SiO2膜に存在する残余秩序の熱履歴依存性

Si酸化のシミュレーションとX線回折測定により、異なる温度で成長したSiO2膜の構造とアニールによる構造変化を調べた。大規模なSiO2/Si(001)構造モデルを結晶Siに表面から酸素原子を一個ずつ導入して作成した。定温分子動力学計算を成長途中の構造モデルに対して繰り返し行った。熱酸化膜の残余秩序を反映するX線回折ピーク(残余秩序ピーク)の位置と強度は、熱酸化膜の成長温度に依存し、アニールによっても変化する。ピーク強度は、成長温度を上昇すると減少する。アニールは、ピーク強度を単調に減少させ、またその位置をCTRに沿って低角度側へ移動させる。これらの結果について、シミュレーションと実験の結果はよく一致した。これらの結果から次の三点が示された。(1)より高温で成長した熱酸化膜はより少ない程度の残余秩序を所持する。(2)アニールは残余秩序を減少させ、最終的には完全な非晶質SiO2に転化させる。(3)CTRに沿ったピークの移動は、SiO2の表面法線方向の体積膨張を反映している。
[K. Tatsumura, T. Watanabe, D. Yamasaki, T. Shimura, M. Umeno, I. Ohdomari, Jpn. J. Appl. Phys. 42, 7250(2003).]



Si(111)基板上の熱酸化膜の大規模モデリング
-熱成長SiO2膜の基板面方位依存性-

SiO2/Si(111)界面構造の大規模なモデリングを行った。その結果をSiO2/Si(001)界面構造のモデリングの結果と比較し、熱酸化膜の基板面方位依存性を議論した。Si(001)上のSiO2モデルと同様に、Si(111)上のSiO2モデルは元の結晶Siの(111)面由来の残余秩序を保持している。但し、その残余秩序の方向と周期は基板面方位に依存して全く異なる。続いて、酸化の際界面で発生する圧縮応力の程度と、それが発生後に緩和する程度を調べた。元々界面で発生する圧縮応力は、Si(111)基板を酸化した場合の方が大きい。しかし、発生後に起こる塑性変形と体積膨張の結果、バルクのSiO2の歪みは、Si(111)基板の方が小さい。これは、実験事実と一致する。
[K. Tatsumura, T. Watanabe, D. Yamasaki, T. Shimura, M. Umeno, I. Ohdomari, Jpn. J. Appl. Phys. 43, 492(2004).]



SiO2ネットワーク中における原子状酸素と分子状酸素の反応と拡散

SiO2ネットワーク中における原子状酸素と分子状酸素の反応と拡散を議論するために、原子状酸素もしくは分子状酸素に暴露した際にSi-Oネットワークに変化が起こるか否かを、熱成長SiO2からの残余秩序X線回折ピークとその周辺の強度プロファイルを測定することで、調べた。本研究の新しいアイディアは、残余秩序回折ピークを熱酸化膜の構造評価の指標として使う点にある。従来は、SiO2は非晶質とされ、その構造を特徴付けること、またその変化を検出することは困難であった。実験の結果、O原子暴露(400℃)の場合、ピーク強度は約一桁減少し、またその周辺の振動強度パターンは消失した。強度プロファイルの分析の結果、O原子暴露の試料は、界面から表面に向けて徐々に非晶質化していることが明らかになった。この結果は、低温であってもO原子が、表面近傍でSi-Oネットワークに取り込まれ、ネットワークを組替ながら界面へ拡散していくことを示している。一方、O2分子暴露(850℃)の場合、2nmの膜厚増加により酸化種が界面に達していることが確実な条件にあるにもかかわらず、ピーク強度は減少しなかった。この結果は、O2分子は、界面反応が可能な高温においても、Si-Oネットワークと反応しないことを示している。今回の結果は、最近精力的に行われている理論的研究の予測に対して、実験的な証拠を提示している。[KEK, PF-ring under proposal No. 2004G220]

[K. Tatsumura, T. Shimura, E. Mishima, K. Kawamura, D. Yamasaki, H. Yamamoto, T. Watanabe, M. Umeno,I. Ohdomari, Physical Review B 72, 045205(2005).]



Layer-by-Layer酸化シミュレーション

Si結晶表面の1原子層毎酸化現象が、酸化種のランダムウォークのみを想定したモンテカルロシミュレーションで再現できることを初めて見出しました。酸化反応が1原子層分進む毎に、界面のmajority層が交替する様子が明瞭に再現されました。これは、界面に生じた無数の小さな島状酸化領域が2D成長して1層を覆うという、従来の定説を覆す発見です。また、現在大常識となっている「薄い領域の熱酸化速度が界面の酸化反応に律速される」という有名なDeal-Grobeモデルも再検討の余地がありそうです。
T. Watanabe et al., Appl. Surf. Sci. 237, (2004) pp.125-133.

 


Schematic illustration of the Monte Carlo simulation of layer-by-layer oxidation process
taking a random walk of oxidants into account


Changes in total area of 2n-th Si layers at the interface and in interfacial roughness during the oxidation



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